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不動産豆知識

賃借人の「彼女」と名乗った代理人のなりすましを見抜けなかった保証会社の主張が棄却された事例

 

今回のケース

令和元年7月、賃借人Yの彼女と名乗る女性「彼女」が、不動産ポータルサイト(以下、不動産サイト)から、賃貸マンション(貸主・宅建事業者A)の入居を申し込み、宅建事業者Bの担当者が対応しました。
後日、「彼女」が、Yの運転免許証および保険証の写し・源泉徴収票の写し・入 居申込書兼保証委託申込書をBに持参し、初期費用の減額交渉等を行い、Bの担当者は「彼女」に重要事項説明書・契約書を渡しました(重要事項説明について実施されたかは不明)。
後日、「彼女」からYの署名捺印がなされた契約書面等がBに送付されたため、 YとAは賃貸借契約に至りました。契約期間は令和元年7月10日から3年間、月額賃料は管理費等含めて32万円余。また、Yは保証会社Xと賃料立替払に関する契約(立替払契約)を締結し、和元年 7月10日に物件の引渡しを受けました。
しかし、引渡し後4カ月間はYからXに賃料の支払いがあったものの、令和元年 12月分から令和2年4月分の5カ月分、賃料合計161万6,000円の支払いがありませんでした。
Xは、Yに対し、未払金を支払うよう求めましたが、Yは賃貸借契約および立替払契約を締結したことを否認しました。
令和2年7月、Xは、Yに対し、立替払契約に基づき、未払賃料および遅延損害金の支払いを求める訴訟を提起しました。
 
 
 
 
【解説】
裁判所は、次のように判示し、Xの請求を棄却しました。
 
(1)「彼女」は使者だったのか
Xは、Yが「彼女」を使者として賃貸借契約および立替払契約を締結したと主張する。しかし、XがYの使者であると主張する「彼女」が誰であるのか特定されていない上に、賃貸借契約および立替払契約締結時の状況等も具体的に明らかになっていない。
Xは、不動産サイトからの契約申込みに対してBの担当者が連絡し、申込みの審査結果は、申込書類に記載された連絡先に報告したと主張する。しかし、Yに対して連絡がされたと認めるに足りる証拠はない。さらに、入居申込書兼保証委託申込書、定期建物賃貸借契約書および立替払等委託契約書にYの連絡先として記載された携帯電話番号は、Yとは無関係である株式会社C が当時使用していたものであること、入居申込書兼保証委託申込書にYの勤務先のものとして記載された電話番号は使用されていない番号であることからすれば、そもそもBの担当者等がYと連絡を取り得たとは認められない。

 
 
(2)申込書等に虚偽の記載
また、申込書等に記載された番号に連絡をすると、Yの勤め先以外の会社につながるか、または使用されていない番号であることが判明するのであるから、宅建事業者としては申込書等に虚偽が記載されているとして慎重に対応するのが通常であると考えられる。それにもかかわらず、Xは、申込書類に記載された連絡先に申込みの審査結果を報告したと主張するのみであることは不自然であり、Bの担当者等がYに対してXが主張するような連絡を実際に取ったとは認められない。
 
 
(3)Yが契約に関与した証拠がない
さらに、Xは、Bが賃貸借契約締結に際して、重要事項説明書および賃貸住 紛争防止条例に基づく説明書に基づきながら、誰に対して、どのように重要事項等を説明したのか等についても具体的に明らかにしようとせず、不自然である。そもそも、重要事項説明書の宅地建物取引士欄に記された氏名の横には、Yの姓である「Y」の押印がされており、記名された者の押印がない。賃貸借契約を締結するに当たって必要な 重要事項について実際に説明がなされていれば、このような誤った押印がされるとは考えがたく、不自然な重要事項説明書であるといわざるを得ない。
加えて、Xは、不動産サイトからの契約申込の際に、「彼女と住みます」という記載があったと主張するが、定期建物賃貸借契約書には入居するのはYのみとなっており、当初の契約申込とは異なる内容になった経緯について、Xは何ら説明をせず、不自然である。
また、賃貸借契約および立替払契約の各契約者になされた署名がYによるものであること、押印がYの印鑑によるものであることを認めるに足りる証拠は見当たらない。
そうすると、賃貸借契約および立替払契約の各契約書は、Yが関与しないところで作成されたというべきであって、Yが「彼女」を使者として賃貸借契約および立替払契約を締結したと認めるに足りる証拠はない。
これに対し、Xは、「彼女」と名乗る人物が、Yの運転免許証および保険証の写しを持参したことを指摘し、「彼女」がYの使者であるなどと主張するが、運転免許証や保険証の写しが何らかの理由で流出することもあり得ることに加えて、賃貸借契約および立替払 契約の締結時に運転免許証等の原本 確認がされていないことがうかがわれることからすれば、写しの存在をもって Xの主張を採用することはできない。
また、Xは、入居申込書兼保証委託 申込書にYの勤務先のFax番号として記載された番号がYの勤務先のFax番号であることから、Yの関与を主張するが、Yの運転免許証等の写しを入手し、Yの勤務先も把握している人物であれば、Yの勤務先のFax番号を把握していることは不自然ではなく、この点のみをもってYの関与を認めるには足りず、Xの主張は採用できない(東京地裁令和4年3月2日判 决)。
 
 
 
【総評】
本件は、運転免許証・健康保険証が本物の写しであったことから、宅建事業者が誤認し本人確認をしなかったことにより、なりすましを見抜けなかった事案です。 トラブルを未然に防ぐためには、必ず本人確認を行い、記載された申込書等の確認、代理人の本人確認を行う等、なりすましでないことの確認をする必要があると思われます。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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